陸上競技のオリンピック選手だった、為末大さんが、
勝負強い選手とそうではない選手の違いについて、
次のように語っています。
陸上の試合を見ていて、準決勝まで走れていたのに
決勝だけ走れないことや、レース中に失速する様子を
見て不思議に思っている方も多いと思います。
引き込みという現象が私たちの世界ではよく知られています。
ランニングをしていて目の前の人の走りのリズム(ピッチ/回転数)
と知らず知らず同調していたという経験はないでしょうか。
それが引き込みです。
私たちは無意識に動きが同調するという性質を持っています。
なんとこれが、ウサインボルト選手が世界記録を出したレースでも
確認されています。二着でゴールしたタイソンゲイ選手の走りのリズム
が引き込まれていました。陸上用語で言えばピッチのリズムが同調して
いたということです。
走りのリズムが同調することには良い時と悪い時があります。
良い時は、目の前の選手を追いかけていたら普段の自分では
気づいていなかった自分の新しい走りのリズムが出現し、
いつの間にか限界を突破していたというものです。
この引き込みはレース中もありますし、繰り返せば学習もしますから、
チームが強くなる時にはこの引き込みがチーム内全体に影響している
のではないかと考えています。
上手い人を見ながらやると自分も上手くなった気がするし
実際に上手くできるけれど、一人になると途端に変になるのも
引き込みの一種だろうと思っています。
一方悪く出る時は、これがいわゆるレース中の失速になります。
100mの決勝を見ていて選手の走りがおかしくなることがありますが、
これは周囲の動きに引き込まれ自分の動きから離れてしまった
可能性があります。ストライドが伸びすぎたり、ピッチが高まりすぎたりします。
勝負強い選手は他者の動きに同調しにくく自分の動きが守れる
という点で他者を遮断できているのではないかと考えています。
さらには緊張もまた自分の中にある他者からの期待を想起する
ことによって生まれますから、社会性を大いに含むんでいます。
他者や周辺の影響を受けすぎる選手は、周りに巻き込まれやすくなります。
また、特定のリズムストライドで走る時は、パフォーマンスが高いけれども、
ずれてしまった際には急に走れなくなるような選手がいます。
動きのストライクゾーンが狭いタイプで、ある形がありその形の時には
力が出るのだけれどどこか一部分だけでもずれると
全体が大きく影響されるタイプです。
こういった選手は当たるとすごいけれども外れるとすごく動きが崩れます。
大雑把に整理すると
①周囲の影響を受けやすいかどうか
②動きの幅が広いかどうか
が勝負強さに影響しているように思います。
さて、ではそういう性質を持つ選手は結局勝負強くなれないのか
というとトレーニングで克服が可能だと思います。
突き詰めれば注意を向ける先を自分の意図でコントロールできるのか、
周辺環境にコントロールされるのかの違いだと考えています。
これを自らの側に引き戻すという点で注意を向ける先を選び維持する
トレーニングがいいのではないでしょうか。
みなさんが指導をしている競技では、
選手やチームに、どんな“引き込み現象”がありますか?
スポーツコミュニケーション研修でお伝えした、
P = Po – I
パフォーマンス(P)
選手やチームの潜在能力(Po)
選手やチームの阻害要因(I)
で、Iがプラスにもマイナスにも働くケースですね。
一度、チェックしてみてはいかがでしょうか?