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48.Tips: 自信って何?どうやって培うことができるの?

五輪メダリストであり、スポーツ心理学者である、

田中ウルヴェ 京さんの著書「心の整えかた」からの紹介です。

  

「自信」とは、『広辞苑』(第七版)では、

「自分の能力や価値を確信すること。自分の正しさを信じて疑わない心」とあり、

「自分の能力や価値を信じること」と定義しています。

 

では、どうすれば自信を培うことができるでしょうか?

自信には、2つの種類があります。

「結果予期」の自信と、「効力予期」の自信です。

 

「結果予期」の自信:

 → 「良い結果が出て自信になった」という種類の自信のこと、

 

「効力予期」の自信:

 → 効力とは、「効力を及ぼすことができる力=自分が〇〇をできる力」の意味であり、

   効力予期の自信とは、人から見えていなくても、

   自分が今日できたこと、継続していることを通じて、

   「自分には実力をつけるまでの積み重ねを続ける能力があり、

   価値のある人間だと信じていること」です。

   この自信も、れっきとした「根拠ある自信」であり、

   これこそ、メンタルトレーニングによって、

   しっかりと根付かせておきたい自信です。

 

効力予期の自信は、結果を出すまでの過程で培われていく自信であると同時に、

結果が出なかったあとも、次に進むために使えるものです。

勝ち負けは、自分ではコントロールができません。

相手が自分より強ければ、相手が自分より速ければ、

どんなに頑張っても負けてしまいます。

結果予期のことだけを考えていたら、もちろん、

負けても自信にはつながりません。

でも負けるという結果が出るまで努力を続けた、

その経験で得たものがあったはずです。

それにしっかり意識を向けることができれば、

経験が自信となり、次に繋がっていきます。

 

指導者のみなさん、

選手の自信を培うのに、「効力予期」の自信を利用しませんか?

「効力予期」の自信を培うことは、コントロールできます!

47.Tips: 選手指導時に心がけることは?

帝京大学ラグビーチームを大学選手権9連覇に導き、

2023年から帝京大学スポーツ局長である岩出雅之氏の

著書「逆境を楽しむ力」からの紹介です。

 

9連覇を達成した岩出氏が選手を指導する際に心がけていることを紹介します。

岩出氏の指導の対象が大学生ですので、

みなさんの中には小さなお子さんを指導している方もいて

全てそのまま当てはまらないかもしれませんが、

参考になる部分もあるかと思います。

 

岩出氏が心がけていることは以下です。

 

直接的にあれこれ指示、指導するのではなくて

できる限り、学生自身に課題や挑戦テーマに気づいてもらい、

自分たちの意思で行動できるように場をととのえ、サポートすること。

 

岩出氏が介入することもあるが、

介入の度合いは、その時の状況により異なり、

次に挙げる言葉(『子育て四訓』 教育者 緒方甫さんの言葉)を

すごく大切にしているとの事です。

 

 乳児はしっかり肌を離すな

 幼児は肌を離せ手を離すな

 少年は手を離せ目を離すな

 青年は目を離せ心を離すな

 

本来は、子育ての極意を示したものですが、

人は大人であっても何かに打ちのめされている時は混乱していて、

「幼児」のように弱いメンタルの時もあります。

そうした困難に直面し、メンタルが乱れている非常には、

寄り添うイメージで助けにいきます。

 

また、普段の行動や生活を見ていて

「あれ、ちょっと変だな」と感じる学生がいる時は

「目を離さない」ようにします。

その学生とつき合いの深い友人や寮で同じ部屋の学生などに、

定期的に状況を報告してもらうこともあります。

話を聞いてあげるだけでも、メンタル的に相当楽になります。

 

緊急性の程度が低ければ、岩出氏の介入の基本スタンスは

「(目を離して)心を離すな」ということです。

相手の置かれている状況(特にメンタルの状態)をよく観察・理解し、

それに応じて、「最適な強度」の介入をすることが、

チーム内の人間関係を良好に保ち、

仲間との絆を強化するポイントとのことです。

 

みなさんが選手指導で心がけていることは何ですか?

選手への介入の基準・スタンスは、どのようなものですか?

46.Tips: 3人トークの具体的な中身は?

 帝京大学ラグビーチームを大学選手権9連覇に導き、

 2023年から帝京大学スポーツ局長である岩出雅之氏の

 著書「逆境を楽しむ力」からの紹介です。

 

スポーツコミュニケーション研修の中で、帝京大学の「3人トーク」を

ちょっとだけ紹介しましたが、今回は、もっと詳しくお伝えします。

 

「3人トーク」とは、

練習中でもミーティング中でも、近くにいる3人が、

ぱっと集まって、1~2分話し合うミニ・ミーティングのことです。

メンバーは固定されていません。

ぱっと集まるので、どういう組み合わせになるのかわかりませんが、

上級生が下級生(1、2年生)を見つけて組むようにし、

下級生だけのグループにならないようにしているとのことです。

 

選手間の連携があまり取れていない春ごろは、

練習を何度も中断して、岩出氏(スポーツ指導者)が選手に

質問や短いアドバイスをします。

そのあとで「今、言ったことを1分で確認してみて」と岩出氏が言うと、

グラウンド上で3人トークが始まります。

 

3人トークのポイントは、上級生は聞き役に回り、

なるべく下級生に話をさせること。

自分のポジショニングや他の選手との連係について、

何となくわかったつもりになっていても、

「なぜ、それが必要なのか?」というところまで

深く理解していないケースがよくある。

 

下級生の中には、「コーチから『そうしろ』と言われているからする」とか

「規律だからする」というレベルが最初は多いが、

「外部からの圧力」が動機になって行動しているうちは、

フローの状態で実力を100%発揮することは期待できない。

 

特に実際の試合では、後半疲れてくると、

「外部からの圧力」を動機にしている選手は、途端にプレーの質が低下する。

一方、行動の意味を深く理解し、自らの意思でその行動をとる選手は、

疲れてきてもモチベーションが高く維持され、

プレーの質が下がらない。

 

3人トークを繰り返し行うことで起きることは、

・下級生・・・「やるべきこと」が「具体化」、「論理化」、「意識化」される。

・上級生・・・下級生に質問しながら自分たちのやるべきことを確認できる。

        人に教えられるようになって初めて自分の身につく。

 

試合では、前半になかなか調子が出ない時があり、限られた時間の中で

いかに修正できるかがポイントになるが、その際のコミュニケーションツールとして、

「3人トーク」は欠かせないものである。

 

スポーツ指導者のみなさん、

「3人トーク」を試してみてはどうでしょうか?

選手の成長には、インプットだけではなく、アウトプットの機会も必要のようです。

45. Tips: フローに入る技術とは?

帝京大学ラグビーチームを大学選手権9連覇に導き、

2023年から帝京大学スポーツ局長である岩出雅之氏の

著書「逆境を楽しむ力」からの紹介です。

 

フローという言葉を聞いたことがあると思います。

時間を忘れるほど何かに熱中した経験は、誰にもあると思いますが、

それがフローと呼ばれる状態です。

 

フローになった時、人は持っている能力を存分に発揮でき、

チームの活動であれば、仲間とまるでテレパシーで通じ合い、

チームの端々まで神経が行き届いている感覚で

想い通りのチームプレー、チームワークが実現できるようになります。

 

フローには、以下の7つの特徴があります。

 

特徴1:高度に集中し、没頭している

特徴2:現実離れした忘我の感覚がある

特徴3:目標が明確で、何をどうすべきか心得ている

特徴4:タスクの難易度が適度で、やれる自信がある

特徴5:平静な心。心配事がなく、成長を実感できている

特徴6:時間の感覚を忘れる

特徴7:活動自体が報酬になる内発的動機が原動力

 

では、どうすればフローに入れるのか、7つの鉄則が以下です。

 

鉄則1:明確な目標を定め、心理的エネルギーを集中させる

 → 旅立つには、目的地(目標)が必要。

鉄則2:あらゆることに成長マインドセットで取り組む

 → 「どうせできない」(固定マインドセット)

    「きっとできる」(成長マインドセット)

鉄則3:今のレベルより「ちょっと上」にチャレンジする

 → “その人が持っているスキル”と、

         “取り組む対象の難易度(チャレンジ)”のバランスが重要。

         自分にとっての「最適難度」のチャレンジ(課題)に取り組む。

        ・・・ 自分の実力より1~2割上のレベルのことに取り組む。

鉄則4:即座のフィードバックがある

 → 自分がうまくやれていることをリアルタイムで自覚することにより、

   さらに集中力を高め、没入できる。

   ・・・ 目標数値を定めておくと定量化できるとよい。

鉄則5:大事なのは「未来」や「過去」ではなく「現在」

 → 試合に臨んだ時、「もっと練習しておけばよかった」(過去)とか、

    「この試合に負けたらコーチに怒られるだろうな」(未来)などと、

    意識が「過去」や「未来」に飛ぶと「現在」に注がれる「注意力」が低下する。

 

鉄則6:「楽しさ」を活動の中心に置く

 → Z世代は、特に悲壮感を漂わせながら死力を尽くして闘うよりも

    笑顔で楽しんでプレーした方が自分の実力を100%発揮しやすい。

鉄則7:パフォーマンス向上の天敵、「外部圧力」を少なくする

 → 外部圧力は以下の3つ。

    ・「感情的圧力」: 相手や周囲からの批判やプレッシャー(組織に、心理的安全性が必要)

    ・「経済的圧力」:目標やノルマを達成しないと給料が下がる、降格させられる

    ・「惰性」:練習の中に惰性が生じると、成長が止まり、退化が進み、勝利から遠ざかる

 

みなさんのチームには、フローに入る鉄則のいくつがあてはまりますか?

44. Tips: セルフエフィカシー(自己効力感)を高めるには?

人は、なかなか行動に移すことができないことがあります。

行動しなければ、何も変わりません。

自分を突き動かす動機や期待が必要です。

この期待や動機を、「自己効力感」です。

 

セルフエフィカシー(自己効力感)とは、

ある状況において「自分はうまく行動できる」「達成できる」という

自分の能力に対する自信の程度のこと。

 

では、何があれば、人は行動を起こすことができるのでしょうか?

 

それは、「効力期待」と「結果期待」の両方が共に高い時、

自己効力感が高くなり、自信に満ちた積極的な行動をとることができます。

 

「結果期待」とは、

ある行動がある結果を導くだろうという個人の推測のこと。

例)間食をやめれば、きっとやせられるだろう(結果期待はプラス)

 

「効力期待」とは、

結果を出すため必要な行動をとり、結果を達成できる確信のこと。

例)ダイエットに何度も失敗し、続ける自信がない(効力期待がマイナス)

 

「結果期待」と「効力期待」の両方を上げるのに、

そう簡単ではないのは、「効力期待」の方です。

 

では、「効力期待」を上げるには、どうすればよいか?

 

それは、次の5つの要因の中で利用できるものを使っていくことです。

① 「達成経験」:自分の経験

   ・・・ 自分の体験で成功体験が少ない時は、「スモールゴール」を設定し、

             心理的なハードルを下げる。

② 「代理経験」:他人の経験から学ぶ

   ・・・ 他者の達成経験や成功体験を自分にあてはめて考える。

③ 「言語的説得」:励ましの言葉

④ 「生理的情緒的高揚」:体調や気分の高まり

   ・・・ 1人だけの努力に任せるのではなく、仲間が見守り、

              人間関係の繋がりの中で行動にチャレンジ。

⑤ 「想像的体験」:成功や失敗の想像

 

もし、指導する選手に自己効力感が低いと思われる選手がいたら、

上記を試してみてください。

 

参考:

自己効力感と似た言葉に、自己肯定感があります。

「ありのままの今の自分を尊重し、受け入れる感覚」のことです。

自分自身を尊重しているので、他人と比較して卑下したり、

他者からの評価をそれほど気にしたりしません。

自己肯定感と自己効力感は、まったく異なるものですが、

何か行動を起こすには、自己肯定感も重要です。

43. Tips: 集中力を保ち、高めるには?

帝京大学ラグビーチームを大学選手権9連覇に導き、

2023年から帝京大学スポーツ局長である岩出雅之氏の

著書「逆境を楽しむ力」からの紹介です。

 

集中力の敵は、“退屈な状態”です。

人間は退屈な状態が嫌いで、耐えられません。

退屈な状態に陥ると脳が「苦痛」を感じ、そこから逃れようとします。

 

集中力を保ち、高めることは、「退屈との戦い」です。

では、どのように戦うか?

①「スキルレベル」と「チャレンジレベル」を釣り合わせる

 「スキルレベル」は、そこそこの水準にあるのに、「チャレンジレベル」が低い時は、

 「退屈」に感じやすい。指導者やリーダーは、メンバーのスキルとチャレンジレベルに

 目配りをして調整しないと、集中力が切れる原因をつくることになる。

 「フロー」の状態は、「スキルレベル」と「チャレンジレベル」が共に高い状態です。

 

②「可変性」をつくる

 同じことを繰り返していると、人間はすぐに慣れて飽きます。

 「可変性」をスポーツの練習やビジネスの日常業務の中に見出せないと、

 飽きがきて脳が「苦痛」を感じ、そこから逃れようとして、注意散漫になります。

 スポーツ選手であっても、ビジネスパーソンであっても、高みに向けて

 細部にまでに拘る人は、毎日、「可変性」を見つけ楽しんでいます。

 「可変性」を見つけることができれば、それが楽しさに繋がり、集中力が継続します。

 

 (参考:マラソンの練習で、長い距離を走る時、同じ場所を何回も周回するのは、

      飽きて非常に苦痛です。私は、よく実感しています。)

42. Tips: ガチガチに緊張した時はどうする?

帝京大学ラグビーチームを大学選手権9連覇に導き、

2023年から帝京大学スポーツ局長である岩出雅之氏の

著書「逆境を楽しむ力」からの紹介です。

 

いざ本番を迎えた時、ガチガチに緊張すると本来の力を

発揮することができません。

スポーツでも、ビジネスでも同様に起こります。

 

「緊張・興奮レベル」は、高すぎても低すぎても

パフォーマンスを発揮することができません。

適度なレベル(「ゾーン」)が存在します。

 

一流の選手や一流のビジネスパーソンは、

自分なりのコントロール方法をもっているはずです。

これに関しては正解はありませんが、

自分で効果があると思った方法を実行するのが一番です。

但し、事前に自分で効果を試しておくことが欠かせません。

 

しかし、まだ自分なりの方法について行き着いていない人は、

以下のいくつかのお勧めが参考になります。

 

①筋弛緩法(きんしかんほう):緊張でガチガチ状態の筋肉を緩める方法

まず、椅子に深く腰を掛けて、手を軽く握って、ももの上に置き、準備する。

ここから手をぎゅっと強く握り、全身に思い切り力を入れて、5秒くらい保持する。

5秒たったら一気に脱力する。

 

②他人に感謝したり、他人のことを思いやる(利他の心を持つ)

感謝したり、利他の心を持つと、脳内にオキシトシンというホルモンを出すことに繋がる。

このホルモンにはストレス反応を和らげる効果があります。

 

③シチュエーション別の「心の整え方」をあらかじめ用意する

例えば、「試合で緊張したらどうするか?」

「カッとした時、心をどう落ち着けるか?」

「劣勢のまま試合時間が残り少なくなった時、集中力をどう保つか?」

のようなメンタル的に厳しい状況を設定し、事前に自分なりの対策を考え、

普段から試しておく。

 

④「ゾーン」に入るルーティン持っておく

一流の選手は、「あがり状態」(過緊張・過興奮の状態)でも、

「さがりの状態」(緊張・興奮状態が低過ぎる状態)でも、

自分をコントロールする方法を身につけています。

例えば、野球のイチロー選手がバッターボックスでの毎回同じ動作、

ラグビーの五郎丸選手がキックの前に毎回繰り返す動作。

 

是非、試してみてください。

41. Tips: 心理的な余裕のつくり方とは?

帝京大学ラグビーチームを大学選手権9連覇に導き、

2023年から帝京大学スポーツ局長である岩出雅之氏の

著書「逆境を楽しむ力」からの紹介です。

 

スポーツの試合で相手にリードされた時、選手に心理的な余裕がなくなります。

心理的な余裕がないままでは、試合は良い方向に向かいません。

そのようなピンチの時に心理的な余裕を取り戻す、

一番手軽で効果があることは、何だと思いますか?

 

それは、呼吸を整えることです。

 

具体的には、

まず鼻から息を深く吸って、口から少し時間をかけて出す。

それを2,3回繰り返す。

 

そうすることで最初に息が整い、

次に心が整ってきて、

心理的余裕が生まれ、

論理的に考えられるようになってきます。

つまり、有効なリフレクション(振り返り)ができるようになり、

行動の改善に繋がります。

 

呼吸と心と体の3つは、密接に関わっています。

呼吸が乱れれば、心が乱れ、

心が乱れれば、姿勢や行動も乱れます。

逆境の時、いきなり心を整えようとしても難しいので

呼吸や姿勢から整えていくということです。

 

是非、試してみてください。

 

参考)

  深い呼吸は、自律神経のバランスを整える効果があると言われています。

  深くゆっくりした呼吸によって、自律神経のうちの副交感神経が優位になり、

  心も体もリラックスできます。

40. Tips: 常勝チームに必要な心理的安全性以外のものは?

帝京大学ラグビーチームが大学選手権で9連覇したことは有名です。

しかし、その後3年間は、選手権優勝はできず、

2022年に10度目の日本一を達成し、今年2023年も優勝しました。

どのようにして帝京大学ラグビー部は復活したのでしょうか?

 

 2022年まで監督であり、2023年から帝京大学スポーツ局長である

  岩出雅之氏の著書「逆境を楽しむ力」から紹介します。

 

  9連覇した時の大きな成功要因の一つに、ラグビー部の組織の変更がありました。

  4年生を頂点にした体育会系のピラミッド組織(三角形型)を逆転させ、

 それまで部内の雑用を一手に引き受けていた1年生の雑用を

 心理的に比較的余裕のある3・4年生に移して「逆ピラミッド組織(逆三角形型)」

 としました。

 

 この狙いは、心理的余裕があまりない1年生への負担を減らすことで、

 勉強やラグビー部の活動に打ち込める(“自分づくりに専念”できる)ようにし、

 心理的余裕をもたせ、組織の活性化を図ることでした。

 つまり、心理的安全性を組織に持ち込んだのです。

 しばらくは、この試みはうまく機能していましたが、だんだん綻びがでてきました。

「逆ピラミッド化」をやり過ぎてしまったのです。

 

 入部した1年生は、自分たちで雑用をした経験がないので、

 その大変さがよくわかりません。

 そのため、4年生や3年生が雑用をしてくれても、

 「感謝」や「尊敬」の気持ちが芽生えにくい。

 時間的にも心理的にも余裕ができた分、

 1年生にはやるべきこと(自分づくりと勉強)に全力で取り組む努力義務が

 暗黙のうちに課されるわけですが、その意識が当事者には希薄だったのです。

 

 その結果、心理的安全性も責任・挑戦レベルも

 両方高い“学習ゾーン”の組織(自律成長組織)を目指したのが、

 心理的安全性は高いが、責任・挑戦レベルは低い

 “快適ゾーン”の組織(仲良しグループ)になってしまった

 ということです。

 

 そこで2019年度までの“逆三角形型”組織を、

 2020年度からは“ホームベース型”組織に変更しました。

 1年の時に上級生が全部雑用をやってあげるのではなく、

 1年生のうちから少しずつ教えてあげて、

 徐々に雑用を上級生が手放していく組織としました。

 こうすることで、下級生に責任感と「自分も部の運営を担っている」という

 意識を植えつけました。

 

 心理的安全性の軸(高い↔低い)と

 責任・挑戦レベルの軸(高い↔低い)の2軸で4つの領域に分けた場合、

 みなさんの指導するチームは、どの領域にいますか?

 

   心理的安全性の低い&責任・挑戦レベルの低い → 無気力組織(形式的・非効率組織)?

 心理的安全性の低い&責任・挑戦レベルの高い → 不安組織(ギスギス組織)?

 心理的安全性の高い&責任・挑戦レベルの低い → 快適組織(仲良しグループ)?

 心理的安全性の高い&責任・挑戦レベルの高い → 学習組織(自律成長組織)?

 どの領域にいる組織でしょうか?

39. Tips:チームの目的共有と関係性の質向上(外集団と内集団を分ける心理メカニズム*)

人は集団の中では自然と、自分と同じ特性を持った仲間(内集団)を見極め、

内集団に対しては親近感を持ち、協力的に振る舞う一方で、自分とは異なる

特性を持った仲間(外集団)に対しては、警戒したり敵対視したりしてしまいます。

例えば、性別、趣味、できるメンバー/できないメンバー、などです。

 

これは、組織(チーム)の中で課題視される“組織間の壁・部門対立”と同一です。

なので、内集団・外集団の意識が、部門間の対立(チーム内の対立)を生んでいる

と言え、「組織ができれば、必ず壁ができる」ということは、人間の心理上避けて

通れないものです。

 

では、この身内びいきを乗り越えるためには、どうしたらよいのでしょうか?

 

社会心理学の研究では、共通の目的を持つことが集団間の対立を解消するために

有効であると指摘しています。共通の目的を意識することで、相手の集団(部門)は

倒すべき敵ではなく、協力し合う味方であると認識ができます。

相手を味方と認識することで、双方の視点を持ち、相手の立場も踏まえた

コミュニケーションや行動に結びつけることができます。

 

組織(チーム)の目的・目標を浸透・共有していくことが、組織(チーム)内の対立を

なくすのに効果的であるということがわかります。

以前のTipsで、オリエンテーションによる関係性の質向上について触れました。

その中で、オリエンテーションでの情報共有の具体的な項目例として、

チームの夢・ビジョン・目標も挙げました。これにも関係しそうです。

 

みなさんは、チーム内での目的の共有をどのようにやっていますか?

 

 (*)リーダーのための心理的安全性ガイドブック 青島未佳 著、山口裕幸 監修

38. Tips:“心理的安全性が高い”組織・チームづくりとは?

心理的安全性は一朝一夕にできるものではありません。

しかし踏み出さないことには始まりません。

専門家ではないメンバーが取り組みやすいステップとして、

組織・チーム開発のアプローチが有益のようです。(*)

以下にそのステップを紹介します。

 

1)現状の見える化と共有(ex. 組織診断の実施、インタビュー)

 ・客観的なデータ収集(データを収集するといった診断型)

 ・客観的なデータなしで議論すると、リーダーや特定の声が大きい人から見た

  組織の状態となりがちで偏りが生じる。

2)組織・チームの使命、目的の共有

(ex. 個人のパーパス・価値観共有、チームのパーパスづくり)

 ・心理的安全性はチームとしての目的があるからこそ、大切な概念をなる。

  目的が共有されないと単なる仲良しチームになりかねない。

 ・使命・目的の共有は、仕事(タスク)に対するやる気を醸成するのに、

  有益であり、共有することで「組織の目的達成のために、必要なことを

  提案・発言する」状態を促進できる。

3)ルールづくり(ex. チームの行動指針)

 ・プロセスの質を高めるためのルールを決める。

  自分たちで決めたルールは、人から押し付けられたものよりも守る意識が高まる。

 ・ルールを決めることで、活動における規律や枠ができ、同じ方向に行動しやすくなる。

4)対話の場づくり(ex. チームミーティング、1on1)

 ・組織の目的を共有したり、課題を話し合ったりするための対話の場を作る。

 ・この対話の場こそが、メンテナンス・プロセスを改善するものであり、最も大切な

  要素である。

 ・心理的安全性の高い組織づくりにおいて大切なことは、「何を話しているか」でなく、

  「どう話しているか」という対話の質にある。他者の話し方、表情などの人の心理面に

  意識を向ける。

5)人の関係づくり(ex. 1on1、コミュニケーションタイプ、感謝カード)

 ・メンバーの心理的距離を縮める取り組み。心理的安全性の土台は、一人ひとりの

  関係性の近さにある。

 ・まずはお互いの人となりを知り、趣味・家族構成・置かれている環境などの

  インフォーマルなことを知る機会を作ることも有益である。同郷・同じ学校等といった

  身内感覚が生まれ、心理的距離が縮まるだけでなく、仕事・タスクの中で配慮し

  合ったり協力し合ったりする意識を高めることができる。

6)取り組みの継続性

 ・変化を再評価しながら活動を根気よく継続していき、ルールや対話のやり方・頻度も

  状態に合わせて修正していく必要がある。

 (*)リーダーのための心理的安全性ガイドブック 青島未佳 著、山口裕幸 監修

37.Tips:スポーツチームにおける心理的安全性とは?

ビジネスの世界では、「心理的安全性」という言葉をよく聞くようになりました。

スポーツチームも組織です、同じような事が当てはまるのではないでしょうか?

 

 「心理的安全性とは、組織・チームの中で、対人リスクを恐れずに

 思っていることを気兼ねなく発言できる、話し合える状態のことです。」

 

ビジネスシーンのチーム内でのコミュニケーションで、以下の場面で

発言をためらうことがないかというアセスメントが書籍(*)に記載されていました。

 (1) テレワークで相手の画面共有ができていなかったとき

 (2) 自分の名前が間違われていたとき

 (3) 上司が漢字を間違って読んだとき

 (4) (単純な見落としで)自己紹介で、自分だけが飛ばされてしまったとき

 (5) 自分は言いたいことがあるのに、会議で意見を聞かれなかったとき

 (6) 自分だけが持っている情報について、共有したとき

 (7) 良いかどうかは分からないが、自分が思いついたアイデアを共有したいとき

 (8) 自分がエラーやミスを起こしてしまったとき

 (9) 不正や不祥事につながりかねない同僚の行動を指摘したいとき

 (10) 上司のミスを指摘・伝えたいとき

 そして、

ある程度気心の知れた相手なら、(1)(2)くらいは普通に指摘できるが、

面識がほとんどない人や自分よりも職位が上の相手に対しては、

こんなことでも「言おうか、どうしようか・・・」とためらってしまう。

また、(8)(9)(10)あたりは、非常に熟慮して発言をする、もしくは言えない。

 われわれは日々組織の中で、多少なりとも人とのコミュニケーションに対して、

 一種おびえながら、対人不安を抱えて仕事をしている。この対人不安がなかったら

 どれだけ仕事がしやすいだろうと感じることも少なくない。

 みんな、余計な憶測をしたり、不必要なことに気を取られたりせず、

 遠慮しないでコミュニケーションを取って仕事ができれば、どんなによいだろうと

思っている。その一つの答えが「心理的安全性」にある。

と記述されていました。

 

 これを、スポーツチーム内でのスポーツ指導者と選手、選手間の

コミュニケーションに置き換えた場合、

どんな状態の時、チームのパフォーマンスが最大限に発揮できるでしょうか?

 

 精神的な不安等は、選手のエネルギーを大きく消費させます。

 これを大きく改善できるのは、誰でしょうか?

何から着手してみますか?

 

 (*)リーダーのための心理的安全性ガイドブック 青島未佳 著、山口裕幸 監修

36.Tips:あなた自身が弊害になっていませんか?

みなさんは、選手を指導する際、何をベースに実施していますか?

トップアスリートがやっていること?

尊敬する指導者が行っていること?

専門機関で学んだこと?

みなさん自身がやってきたこと/教えられたこと?

等々

 

中でも、みなさん自身がやってきたこと/教えられたことを

ベースに実施している方が多いのではないでしょうか?

 

Basic1研修で、

  PPoI

   P:成果

   Po:ポテンシャル(能力)

   I:弊害

の考え方をお伝えしました。

 

人は、自分が信じていること/大切にしていることを

他人も同じであるに違いないと思い込んでいます。

 

みなさんがやっていることで、

I(弊害)になっていることはないでしょうか?

 

そのためには、まず、あなた自身を知る(自分を知る)ことが必要です。

自分が当たり前だと思っている事、考えている事を理解しましょう。

自分を理解できると、他者についても理解しやすくなります。

 

もし、あなたが選手やスタッフの成長の弊害になっているとしたら、

それは何でしょうか?

35.Tips:効果的な目標の設定方法とは?

スポーツ指導者のみなさんは、

指導の中で選手やチームのゴールや目標を設定します。

どのように設定していますか?

 

 その効果的な設定方法をお伝えします。

 SMARTの法則に従って設定するというものです。

 

では、SMARTの法則とは、具体的には、

以下の内容を沿って設定することです。

 

  SSpecific     ・・・ 具体的、わかりやすい

  MMeasurable   ・・・ 計測可能、数字で表せる

  AAgreed Upon  ・・・ 同意している、達成可能である

  R: Realistic      ・・・ 現実的

    T: Timely       ・・・ 期限、納期、時間的予算

 

 人は、曖昧なものには向かって行こうとしません。

自分の現在位置が、数値で表わされるとはっきり認識できます。

他人から強制されるのではなく、自分の意志で向かい、

しかもそれが達成可能と思え、時間的に可能と思えると、

モチベーションが向上します。

 

是非、みなさんが設定しているゴール・目標をチェックしてみませんか?

34.Tips:オリエンテーションでの同意とは?

もうすぐ新年度が始まります。

あなたの指導しているチームに、新たな選手がやって来ます。

そんな選手に、オリエンテーションを実施し、

いつくかの同意を取り交わすと思います。

 

では、同意とは、どういうことでしょうか?

 

それは、

 同じ意味にする、同じ理解にする、同じ考えにする

ことです。

そして、同意した後に合意が形成されます。

 

では、何について同意を取り交わすのでしょうか?

 

例えば、

  チームのビジョン・ゴール、 目的・目標、 行動規範、

  チームのルール、 戦略・戦術、 役割・責任、

  レギュラー選手の選考基準、 価値観、 練習方法、

  ・・・・・等がありますね。

 

それでは、同意を取り交わさないで、

事を進めるといずれどうなるでしょうか?

 

  不信感が生じる、 遠慮が生まれる、 チームワークが壊れる、

  混乱する(不安になる)、 ストレスが溜まる、 選手が辞める、

  モチベーションが下がる、 喧嘩・対立が起こる、チームが空回りする、

  ・・・・・等が発生することが考えられます。

 

さあ、新年度が始まります!

あなたは、新たに加入する選手に対して、

オリエンテーションを実施して、何について同意を取り交わしますか?

33.Tips: 相手の話を聞くことによって起こる、いい事とは?

通常の会話では、人は一般に無意識のうちに、性急な結論を出そうとします。

話し手の情報に基づいて、主観的に解釈することをします。

その結果、会話の内容の中で結論が既に聞き手の心を占めているので、

話し手が話しているのを実際には聞いていないという現象が起こります。

 

そうすると、話を聞いてもらえない人には、どんな感情が発生するのでしょうか?

 

 「話を聞かれていないんだな」

  ↓

「自分の言っていることは重要と思われていないんだ!」

  ↓

「自分はあまり大切な存在ではないようだ」

  ↓

「ここにいていいのだろうか?」

  ↓

「ここにいない方がいいのかもしれない」

  ↓

孤立感・・・

 

また、“人から話を聞いてもらえない”という感覚を持つと、

自己効力感(*)が下がってしまい、人は無力感に陥ります。

 

一方、話を聞いてもらうと、

「自分の存在が受け入れられている」という感覚が生まれ、

この感覚が、自己効力感を高めます。

 

つまり、人は自分の話を聞いてもらうことによって、

より一層自分を表現してみたいという意欲が生じ、

新しいことにチャレンジする気持ちも高まり、

結果として、行動的になります。

 

もし、スポーツ指導者のあなたが、

選手の言いたい事、考えをきちんと最後まで聞くことをしていたら、

どのようなことが起きるでしょうか?

 

心理的安全性は、上がりますか? 下がりますか?

スポーツ指導しているあなたに対する信頼は、上がりますか? 下がりますか?

あなたは、どんなアクションをしたいですか?

 

(*)自己効力感とは、自分の外側で起きている事象に対して、

自分が影響を及ぼすことが可能であるという感覚のこと。

32.Tips: パフォーマンスを一気に上げる安心・安全の構築方法とは?

スポーツコミュニケーションBasic1研修の中で、

チーム内の関係性(心理的安全性)を構築することの大切さを

お伝えしました。

 

では、具体的には、どうすればよいのか(HOW)について考えていきましょう。

 

どういった時に人は安全・安心を感じるのでしょうか?

いくつか挙げると、

 ① 相手の笑顔を見たとき

 ② 話を聞いてもらったとき

 ③ 自分のことを理解してもらったとき

 ④ 自分の意見を聞き入れてもらったとき

 ⑤ 褒められたとき/承認されたとき

 ⑥ “同じ”ことを共有したとき

  (ex. 同じ○○県出身、同じ学校出身、同じ言葉を使う、共にやる/一緒にやる)

 ⑦ 場所(ex. ホームアンドアウェイのホーム)

 ⑧ 相手との適切なポジション(位置関係:距離・間隔、左右方向等)

などがあります。

 

①の笑顔は、代表的な例ですね。相手が笑顔だったら、安全と安心を感じますよね。

甲子園の高校野球で、結構、笑う子が増えてきています。

 

②~④は、“聞く”ことに関するものです。みなさんもメンタルが下がっている時、

話すこと(聞いてもらう)ことで気分が回復した経験がありますよね。

(聞くについては、別途、詳しく紹介予定です)

 

⑤については、以前、お伝えしました。

(参照先: https://www.ikiikicoach-lab.com/cont5/main.html )

 ・Tips: 「褒めること」と「承認すること」を使い分けていますか?

 ・Tips:承認の言葉

 

⑥の“同じ”ことの共有については、大雑把な捉え方をすると

 “同じ” = わかっている = 安全 、

 “同じでない(違う)” = わからない = 安全でない(危険)

ということになっているのではないかと思います。

なので、同じ県出身・学校出身と聞いただけで親しみを感じ、安心するし、

共にやる/一緒にやる(同じ体験をする)ことによっても安全・安心を感じます。

 

⑦は、スポーツの試合でホームゲームのチームが一般に有利と

言われていることに通じますね。

そして、指導者と選手が話している場所にも、ホームアンドアウェイがあります。

例えば、サッカーで、グランド側のベンチで監督が、怒鳴って

 「オイ!10番、なにやってんだ!ちょっとこい!」

選手がやってきて、「すいません!」と謝る。

これは、選手にとってベンチはアウェイで、監督にとってみるとホーム。

だから、監督は叱るのにパワーが出ます!

選手の頭の中は、一刻も早く、この場から離れたい!の意識だけで、

指導の内容は頭に入らない。

なので、選手を指導する際は、グランド内の選手の所へ行って

指導する方が選手は学ぶことができる。

 

⑧については、人間には、パーソナルスペースといって、

これ以上、内側には入ってきて欲しくないという空間があります。

相手が、自分の顔のすぐ間近まで来て喋るのは、イヤでしょ、あれです。

 

以上のことをしていくと、“何を言っても大丈夫なんだ、否定はされないんだ、

非難はされないんだ、私の話もちゃんと聞いてくれるんだ“ということになり、

“こんなことを試してみよう、あんなことをやってみよう、考えてみよう”

となって、パフォーマンスが一気に上がることに繋がります。

 

指導者のみなさん、

みなさんのチームの安全や安心はどうなっていますか?

どの項目から最適化しますか?

31.Tips: 選手のポテンシャルを高める内発的動機づけとは?

スポーツコミュニケーションBasic1研修の中で、

P = Po  I

   選手やチームのパフォーマンス(P)

   選手やチームのポテンシャル(潜在能力)(Po)

   選手やチームの阻害要因(I)

の考え方を、お伝えしました。

 

この中で、ポテンシャルを構成する要素の中には、選手自身が取り組む

ものが多くあります。しかも継続的に取り組むものも多くあります。

その際、指導者は、どのような関わりをして、選手がモチベーションを高く

維持するように働きかけることができるのでしょうか?

 

スポーツや教育など幅広い場面で使われている、

自己決定理論と呼ばれるモチベーション理論があります。

この理論の中で、自己決定のプロセスがモチベーションに与える影響を説明しています。

それによると、

 ・モチベーションは大きく分けて内発的動機づけ、外発的動機づけ、無動機づけ、

      の3つに分類され、

 ・3つの心理欲求を満たすことで、内発的動機を高められる

と言っています。

 

外発的動機づけは、他者や環境など自分の外側にある人や物から影響を受けて

行動を起こしている状態。外発的に動機づけられる物は、物によるご褒美、

褒める・怒る、締切り期限、社会や周囲からの期待など、さまざまです。

一方、内発的動機づけは、興味、楽しさ、好き、挑戦する気持ち、

といった自分の気持ちや感情、いわゆる「内的な報酬」によって

動機づけられている状態で、自分で自分をコントロールしている状態とも言えます。

そして、一般的に、継続して物事に取り組むには、内発的動機優位の人の方が、

パフォーマンスが高そうです。

 

では、内発的動機を高めるには、どんなサポートをすればよいのでしょうか?

 

それは、次の3つの基本的心理欲求と説明されています。

①「有能感に対して褒めること」によって自分の有能さを感じられること

②自分には自己選択する余地や権利があると感じられること

③今いるグループや組織に自分の役割があって居心地がよい」と感じられること

 

①は、指導者がポジティブにフィードバックを行なうコミュニケーション能力、

②は、指導者が、選手にどうしてほしいのかを伝えるよりも、

 選手自身がどうしたいのかに耳を傾けてあげるコミュニケーション能力、

③は、指導者がチーム内の関係性(心理的安全性)を構築する能力

に関係しそうですね。

 

選手のパフォーマンスを上げるのに、あなたが最初に取り組む項目はどれですか?

30.Tips: 「喝」による「一発学習」の効果は??

前回紹介した「強化学習」とよく比較されるものに、「一発学習」があります。

 

ガツンと言われる、大人がよく言う「喝」を入れられると、

そのことで一瞬発奮して一時的にパフォーマンスが上がることがある。

子どもが親からの働きかけで学習塾に通い始めると、一瞬成績が上がることがある。

発破をかけられると強く記憶に残るので一瞬頑張るからです。

大人たち(特に昭和の)は、「発奮させて乗り越えさせる」などと言うが、

このやり方には、悪影響だというエビデンスしかないようです。

 

そのように、誰かに世話を焼かれ短期間で向上する状態を「一発学習」と言う。

叱られたり、怒られて取り組むことが多いため、別名「恐怖学習」と呼ばれる。

日本の運動部活動やスポーツ指導の現場で、

子どもたちが暴力やパワーハラスメントに苦しんできた背景には、

指導者らのこの手法があります。

 

刺激を与えたその瞬間の教育効果は上述の強化学習の3~4倍と言われるが、

一発学習はマイナスの副作用を伴います。

これを繰り返すとバーンアウトしやすいうえ、他者から世話を焼かれたり、

強い刺激を受けないと動けない人間になってしまいます。

対象が子どもだとすれば、

将来は、主体性のない(自分で考え、選択し、判断して行動することのできない)大人に

育ってしまう危険性があります。

 

そう考えると、あなたは、強化学習と一発学習のどちらを選びますか?

 

注)前回紹介の「強化学習」は、こちらを参照ください。

https://www.ikiikicoach-lab.com/cont5/main.html

 

29.Tips: 選手や部下を成長させる「強化学習」

人の「意欲」にかかわるのは、脳の大脳基底核の一部である線条体と

呼ばれる場所だそうです。

 

線条体は、行動と情感を結びつけたり、

筋肉の緊張を調整することに関与する神経細胞の集合体です。

フォロワー(選手や部下)に対し、丁寧に対話して気持ちを汲み取ったり、

取り組んだプロセスを「よく頑張ったね」とか「楽しめて良かったね」などと

認めてあげると、線条体はよく動く、つまり活性化する。

 

上司や親、監督といった「リーダー」的存在の大人が「プロセス重視」の姿勢を

保つことは、部下や子ども、選手ら「フォロワー」の成長に欠かせない。

このことは心理学及び脳科学の分野でも証明されているそうです。

そして、このことは、脳科学では「強化学習」と呼ばれます。

 

「頑張れば認めてもらえる」「次もやれば、ほめられる」というのは、

例えば、スポーツの野球で言えば、「チャンスには必ず打てよ」とか

「大事なところで抑えろ」というような結果や成果に紐づいたものではありません。

そのため、結果が出ていない選手に対しても、

線条体が動いてやる気が出せる状態にもっていけるとのことです。

 

先ごろ北海道日本ハムファイターズの新指揮官に就任した

新庄剛志監督“ビッグボス”は、

「優勝なんか一切目指しません。一日一日、地味な練習を積み重ねて何気ない試合、

何気ない一日を過ごして勝ちました。勝った、勝った、勝った、勝った。

それで9月あたりに優勝争いをしていたら、さあ! 優勝目指そうと」

と言っています。

一日一日。地道な練習の積み重ね、何気ない試合。

新庄監督がプロセスを重視しているように思えます。

来シーズンの結果が楽しみです。

 

あなたの指導は、「プロセス重視」の姿勢? それとも、「結果重視」の姿勢?

どちらを選びますか?

28.Tips: 「褒めること」と「承認すること」を使い分けていますか?

選手(部下)を育成する際に使用される言葉に、「褒める」と「承認する」があります。

では、この2つの言葉は、どのように違うのでしょうか?

 

「褒める」とは、

 ・・・ 人のしたこと・行いをすぐれていると評価して、そのことを言う。たたえる。

「承認する」とは、

 ・・・ 相手にあらわれている変化、成長、成果に気づき、それを相手に伝えること。

 

「承認する」ことは、事実を事実として認めることであるのに対して、

「褒める」ことは、相手に対する評価が加わります。

 

褒めることも相手のモチベーションを上げる有効な手段の一つですが、

評価のニュアンスが強くなると、良い/悪い、評価する人/評価される人の

構図ができてしまうので、相手がメッセージを素直に受け取りにくくなる場合があります。

 

他方、承認することは、例えば、何かゴール・目標に向っている場合には、

 「ゴール(目標)を達成したね」とか

 「新たなスキルを身につける取り組みをしているね」とか

言われることで、自分の行動を通して、自分自身の成長や変化を

知ることができ、「自己成長感」を感じ、喜びを覚えます。

そして、それが更なる行動(ゴール・目標達成)へのエネルギー源になります。

承認には、“存在承認”、“行動承認”、“成果承認”があります。(*)

 

「褒める」と「承認する」をうまく活用して選手(部下)を育成しましょう。

 

(*)既発行の“Tips:承認の言葉”を参照してください

27.Tips: 「褒める」ことは難しいことですか?

選手(部下)を育成するには、時として褒めた方が良い場合があります。

しかし、スポーツ指導者(上司)の方の中には、

選手(部下)を「褒める」のが苦手な方もいます。

  

みなさんが、誰かを「褒める」ときには、何かと比較しています。

それと比べて、“良かった”、“向上した”から、褒めていると思います。

 

では、何と比較していますか?

優秀な別の選手(部下)と比べていませんか?

 

誰かと比べようとする人にとって、「褒める」ことはすごく難しいものになります。

 

ではどうすれば、褒めることができるようになるのか?

 

横と比べるのではなく、縦と比べるようにしたらどうでしょうか?

 

ある選手(部下)Aさんを褒めようとするとき、

別の選手(部下)Bさんと比べるのではなく、

Aさんの半年前、1年前と比べてどれだけ変化、成長したのか

に注目するのです。

 

そして、どんなに小さな変化や兆しであっても、

そこに目を向けて褒めてみるのはどうでしょうか?

 

無意識で行っていることに対して、

少しだけ意識してみると変わることができます。

 

そうすると、褒める点が多く発見でき、

“できたから、褒めるのではなく、褒めるからできるようになる」

に繋がっていきませんか?

26.Tips: 選手の話を「聞く」ということは、どういうこと?

スポーツ指導者の方の中には、

選手の話を「聞く」のが苦手な方がいます。

 

話を聞いたら、

“選手の言ったことを認めたような気持ちになる”とか、

“選手の言ったことに同意したような気持ちになる”ので、

「聞く」ことができないということはありませんか?

 

もし、そのような気持ちが生じる場合は、

「受け止める」と「受け入れる」を意識して聞いてみましょう。

 

「受け止める」は、英語ではレシーブ、キャッチするということです。

「受け止める」ことは、相手の気持ちを受け止めることです。

「ああ、そうですか」「そうだったんですか」「それは大変でしたね」などと、

単に、状況・状態等を認識することで、自分の中に取り込むのとは別です。

 

「受け入れる」は、英語ではアグリー(同意する)、コミット(認める)ということです。

「受け入れる」は「認める」こと、自分の中に取り込むことです。

意味が大きく違うのです。

自分の考えとは異なるもの、理不尽なこと、事実でないことは、

「受け入れる」必要はありませんし、自分の中に取り込む必要はありません。

 

しかし、人は、話も聞いてもらえないような拒絶を受けると、反発します。

まず、相手の言うことを聞いて「受け止める」、

その後、「受け入れる」のかどうかを決めればいいのです。

一旦、受け止めた後で、受け入れないのであれば、

自分の考えを述べればいいのです。

そうすれば、選手との関係性は築かれていくでしょう。

25.Tips:うまくいくコミュニケーションの条件 _ 相手の話す能力を高めるように聞く

コミュニケーションは、よくキャッチボールに例えられます。

キャッチボールの初心者が、キャッチボールを楽しく続けていけるように

するには、どうすればよいでしょうか?

 

相手はコントロールのきかないひどい悪球もとにかく受け取り、

そして、受け取りやすいボールをリズムをもって返すと思います。

そうやって、まず、キャッチボールの楽しさを体験させますよね。

コミュニケーションも同じです。

 

「もっと、ちゃんと話しなさい」と叱咤することではなく、

「それで?」

「もっと聞かせて」

「へえ、そうなんだ。それからどうしたんだ?」

と、上手に聞いてくれる人がいれば、聞かれていることの安心感から、

わたしたちは自然にわかりやすく話せるようになっていきます。

キャッチする、すなわち、聞く側の聞く能力が、相手の話す能力を上達させます。

 

一方で、こんな困惑の声が返ってきます。

「でも、『思っていることを何でも自由に言ってほしい』と言っても、

みんな言わないんですよ。言えないってこともあるけれど、それ以前に、

言いたいことが本人にもわかっていないみたいなんです」

 

実は、「聞く能力」というのは、

ただ単に、相手が話しやすい雰囲気をつくって、相手に話させ、

それを黙って最後まで受け入れの気持ちをもって聞く、ということだけではなく、

相手が話す事柄を発見するような効果的な質問をする能力でもあります。

 

相手が思わず受け取って返してみたくなるようなボールを投げる能力です。

相手がキャッチボールを始めたくなるようなボールを投げる能力です。

 

「聞く能力」とは、相手に話させる能力です。

24.Tips: うまくいくコミュニケーションの条件 _ 待つ、「間」をとる

選手とのコミュニケーション(対話)において、

投げかけられた言葉に対して、

間髪入れずに、言葉を投げ返してしまったり、

相手が言葉を返すのを待てずに自分から取りに行ってしまったり、、、

 

そんなことをしていませんか?

 

受け取るが早いか、ろくに相手の状態を確かめもせずに投げ返してしまう。

まるで、一刻も早く言葉を手放してしまいたいとでも言わんばかりに。

最初に対話を投げたほうは、言葉が戻ってきたとしても、

相手にちゃんと受け止めてもらった気持ちがしません。

 

対話を楽しむこと自体よりも、

交わす対話の中身のほうを重視していませんか?

 

対話は、お互いの気持ちを乗せる乗り物です。

私たちは気持ち(感情)で動く生き物ですから、

どんなに選び抜かれたすばらしい言葉が投げかけられたとしても、

その投げかけられ方が、

自分を大切にしてくれないものであったら、

言葉そのものも、受け取る気にはなれません。

 

投げかけた言葉に対して、

相手が感じている気持ち(感情)を感じる時間、

「間」を持つ、ちょっと待ってみると、

あなたのコミュニケーション(対話)は、どのように変わりますか?

23.Tips: コミュニケーションの原則

みなさんは、コミュニケーションをとる時、以下の原則のうち、いくつを満たしていますか?

自分のコミュニケーションをチェックしてみましょう!

 

① 1対1である。

② 対等である。(年齢、経験、役割、貸し借りなどの関係を脇において交わす)

③ お互いにレッテルを貼らない。

④ どちらの意見が「正しい/間違っている」という二極化を避ける。

⑤ 考えが違うことを大事にする。

(考えが違うことに脅えるのは自分の問題であることを自覚している)

⑥ お互いに質問する自由を保障する。

⑦ 使う言葉が同じであっても、その意味は、これまでの経験によってそれぞれ違うことを理解している。

 

 結果はどうでしたか?

 何から改善をしていきますか?

22.Tips: コミュニケーションをスタートさせる条件

コミュニケーションは、よくキャッチボールに例えられます。
コミュニケーションは、2人の間で情報のやり取りを続ける状態です、
このやり取りしている情報をボールに替えて表したのが、キャッチボールです。

では、心地よいキャッチボールを始める(スタートさせる)には、
どんなことが必要でしょうか?

以下に記述する4つが必要です。

1)どちらかが「始めたい」という意図を持つ
 「始めようよ」とどちらかが声をかけないと始まりません。
 コミュニケーションも同じです。待っている人ばかりのところでは、
 コミュニケーションは起こりません。

2)相手の同意をとる
 キャッチボールは一人ではできません。
 コミュニケーションのやり取りも同じです、誰かを誘います。
 このとき、力や立場に任せて無理やりいやがる相手を誘ってもうまくいきません。
 相手の準備ができていないうちに、いきなりボールを投げても、うまくいきません。

 相手の「同意」をきちんととることが次に大事なことです。
 この「同意」は、キャッチボールを続けることに対する「同意」でもあります。
 少々手元が狂って悪送球になってしまったり、だんだん熱くなって強いボールの
 投げ合いになってしまうことがあったとしても、途中で勝手にやめない、
 という同意です。

3)向かい合って立つ
 キャッチボールは、向かい合って行うので、向かい合って立ちます。
 後ろはもちろん、横を向いたりしていてはうまくできません。
 コミュニケーションも同様です。あたりまえのことのようですが、
 人と正面から向かい合ってコミュニケーションのとれる人は、そうはいません。
 斜に構えてみたり、腕を組み、足を組んでみたり。鎧をまとうことなく、
 人と真正面から向き合える人は、ありのままの自分自身と向き合える人でもあるようです。

4)適度な距離をとる
 キャッチボールを始める際に重要なことのもうひとつは、適度な距離です。
 キャッチボールは、遠すぎても近すぎてもできません。コミュニケーションも同じです。

 相手を観察し、相手が許容する範囲まで近づく、自分の緊張の度合いも測りながら、近づく。
 この感覚が働かないと、距離をとりすぎたり、近づきすぎたりして、
 いずれも心地よくボールをやりとりすることができません。
 子どもを自分の分身のように思い込んでいる母親は、
 子どもとコミュニケーションを交わすことができません。

 選手を自分の手下のように思い込んでいる監督・コーチは、
 選手とコミュニケーションをもつことができません。

 なかには、いっさいボールを受け取れない人もいるでしょう。
 そうした場合は、近づいて、ボールを投げるのではなく、
 手渡しするぐらいから始める必要があります。
 やがて、少しずつ距離をとりながら、キャッチボールらしくなっていきます。

スポーツ指導者のみなさん
選手とコミュニケーションをスタートさせる条件は揃っていますか?

21.Tips: “いい記憶”を残して、「ベストな自分」になる

 子供の頃のタイガー・ウッズ(4~10歳)のゴルフコーチである

 ルディ・デュランさんは、ジュニア育成のエキスパートです。

 

 彼は、いい記憶だけをノートに書くように指導しています。

 つまり、いい記憶のライブラリーを子供の脳の中につくっています。

 

 「“いい記憶”がたまればたまるほど、すべてがうまくまわりだす。

 なぜならば、自分に合ったやり方がわかってくるから。」

 そして、

 「“いい記憶”がたまると自分の方法が見つけられる」

 と言っています。

 また、「失敗は記憶から消していい」とも言っています。

 

  “いい記憶”は実際のプレーを変える

   練習して学んで成功体験を重ねることで

   「ベストな自分」を発揮する方法が分かってくる

   何より大事なのは今の実力なら「絶対にできる!」と思うこと

   小さな「できた」の積み重ねが成長につながる

 

  これが、彼の考えです。

 

スポーツ指導者のみなさん!

選手が“いい記憶”を脳にためられる為に、

何をしますか? 何をしていますか?

20.Tips:勝負強い選手とそうではない選手の違い

陸上競技のオリンピック選手だった、為末大さんが、

勝負強い選手とそうではない選手の違いについて、

次のように語っています。

 

 陸上の試合を見ていて、準決勝まで走れていたのに

 決勝だけ走れないことや、レース中に失速する様子を

 見て不思議に思っている方も多いと思います。

 

 引き込みという現象が私たちの世界ではよく知られています。

 ランニングをしていて目の前の人の走りのリズム(ピッチ/回転数)

 と知らず知らず同調していたという経験はないでしょうか。

 それが引き込みです。

 

 私たちは無意識に動きが同調するという性質を持っています。

 なんとこれが、ウサインボルト選手が世界記録を出したレースでも

 確認されています。二着でゴールしたタイソンゲイ選手の走りのリズム

 が引き込まれていました。陸上用語で言えばピッチのリズムが同調して

 いたということです。

 

 走りのリズムが同調することには良い時と悪い時があります。

 良い時は、目の前の選手を追いかけていたら普段の自分では

 気づいていなかった自分の新しい走りのリズムが出現し、

 いつの間にか限界を突破していたというものです。

 

 この引き込みはレース中もありますし、繰り返せば学習もしますから、

 チームが強くなる時にはこの引き込みがチーム内全体に影響している

 のではないかと考えています。

 上手い人を見ながらやると自分も上手くなった気がするし

 実際に上手くできるけれど、一人になると途端に変になるのも

 引き込みの一種だろうと思っています。

 

 一方悪く出る時は、これがいわゆるレース中の失速になります。

 100mの決勝を見ていて選手の走りがおかしくなることがありますが、

 これは周囲の動きに引き込まれ自分の動きから離れてしまった

 可能性があります。ストライドが伸びすぎたり、ピッチが高まりすぎたりします。

 

 勝負強い選手は他者の動きに同調しにくく自分の動きが守れる

 という点で他者を遮断できているのではないかと考えています。

 さらには緊張もまた自分の中にある他者からの期待を想起する

 ことによって生まれますから、社会性を大いに含むんでいます。

 他者や周辺の影響を受けすぎる選手は、周りに巻き込まれやすくなります。

 

 また、特定のリズムストライドで走る時は、パフォーマンスが高いけれども、

 ずれてしまった際には急に走れなくなるような選手がいます。

 動きのストライクゾーンが狭いタイプで、ある形がありその形の時には

 力が出るのだけれどどこか一部分だけでもずれると

 全体が大きく影響されるタイプです。

 こういった選手は当たるとすごいけれども外れるとすごく動きが崩れます。

 

 大雑把に整理すると

 ①周囲の影響を受けやすいかどうか

 ②動きの幅が広いかどうか

 が勝負強さに影響しているように思います。

 

 さて、ではそういう性質を持つ選手は結局勝負強くなれないのか

 というとトレーニングで克服が可能だと思います。

 突き詰めれば注意を向ける先を自分の意図でコントロールできるのか、

 周辺環境にコントロールされるのかの違いだと考えています。

 これを自らの側に引き戻すという点で注意を向ける先を選び維持する

 トレーニングがいいのではないでしょうか。

 

 みなさんが指導をしている競技では、

 選手やチームに、どんな“引き込み現象”がありますか?

 

 スポーツコミュニケーション研修でお伝えした、

  P = Po  I

   パフォーマンス(P)

   選手やチームの潜在能力(Po)

 選手やチームの阻害要因(I)

 で、Iがプラスにもマイナスにも働くケースですね。

 

 一度、チェックしてみてはいかがでしょうか?

 

19.Tips:「限界の正体」

陸上競技のオリンピック選手だった、為末大さんが、
「限界の正体」について、次のように語っています。
 

 陸上では有名な話なのですが、1マイルレースという競技があり、当時、

 このレースで人間は4分を切ることができないと言われてきました。

 実際に20数年間、ヌルミという選手が出した記録から世界記録がぜんぜん

 更新されませんでした。今の日本でいう「100メートル9秒の壁」みたいなもの

 です。しかし、ロジャー・バニスターという選手が、初めてペースメーカーを導入

 したり、さまざまな生理学的アプローチで練習することで、ついに4分を切ると

 いう新記録を出しました。

 

 この話の面白いところは、このロジャー・バニスターが記録を破った42日後に、

 彼の世界記録は別の選手によってすぐに破られちゃうのですね。

 で、その選手も3か月後ぐらいに記録を破られまして、2年以内に20名ぐらいの

 選手が4分を切ることになります。これは統計から見ると明らかにおかしいのです。

 これを私たちの世界では、すごくシンプルにいうと、

 「人ができたことは自分もできる」と信じる性質があって、ひっくり返してみると、

 「人ができていないことを自分もできない」と考える性質があると言われています。

 

 実験では、これがもう少し根が深いのは、同じグルーピングをした人を見て、

 行動が変容すると言われています。つまり簡単にいうと、ウサイン・ボルトの記録が

 上がっても、日本人の記録に影響を与えにくいということなのです。

 その代わり、カリブの他の国の記録には影響を与える。

 反対に日本人の記録に誰が影響を与えるかというと、中国人の記録が影響を与える。

 そういうことなのですね。どこからどこまでを自分のグループだと思っているかは人に

 よって違うのですが、スター選手が出るよりも、「おらが町」からスターが出るほうが

 全体の能力が上がるという研究があるのです。

 

 「マインドセット」とこれを言うなら、人間がマインドセットを変えたり、思い込みを壊して

 いく中で、一番重要な観点が一つだけあって、「自分は思い込みに支配されている」

 という考え方をまず持つことです。これすら持たなかったら、自分から見えている世界

 がすべてになって、「もしかして、こうじゃない世界もあるかもしれない」という想像力が

 働かなくなるわけです。「自分が見えているのは、今はこうなんだけれど、

 もしかしたら私の思い込みが外れれば、もっと違うことがあるかもしれない」と

 考えることが大切です。

 

 スポーツコミュニケーション研修でお伝えした、

  P = Po  I

   パフォーマンス(P)

   選手やチームの潜在能力(Po)

 選手やチームの阻害要因(I)

 の考え方を思い出してみましょう。

18.Tips:為末流のスランプ克服方法

陸上競技のオリンピック選手だった、為末大さんが、
スランプをどうやって克服してきたのかについて、
次のように語っています。
 
 「アリとムカデ」という話があるのですが、
 ムカデが歩いていて、その横でアリが歩いてくる時に、
 アリがムカデに
 「私、これだけの本数で大変なのに、そんな100本以上も
 脚があって、
こんがらからないで歩くのはすごいですね。
 どうやって歩いているか教えてください」って言う。
 そこでムカデが得意気になって「こうやって歩くんだよ」
 って言って、
自分の脚を意識した瞬間に、脚が絡まって
 転んじゃうという、
そういう話です。
 
 スランプなどは、無意識でやっていたことを意識的に
 上げてしまったが最後、
どうやったらもう1回、
 無意識に戻ればいいかわからないという現象で、
 スポーツではよく起きます。
 
 その時には、結局考えないようにするのはなかなか
 難しいので、
もう1回、「そうだな。右足から左足に移って、
 それから肩がこんな感じだった」とか、
 そういうふうに直していくのですね。
 一方で、それだけで直らない時に、
 私はどうやったかというと、
 頭を空っぽにして走るのは難しいので、
 せめて何かで頭をいっぱいにしようと思って、
 自分の手首に鈴をつけて走りながら、
 その鈴の音で頭をいっぱいにして走って、
 結果として他の動きが忘れられてきて、
 やっと直したことがあります。
 人によっていろんな手法があると思うのですけれど。
 
ここで思うんですけど、
スポーツコミュニケーション研修で、
主体的に考えて行動する選手を育てるのに
質問を有効に活用しましょうとお伝えしました。
もし、選手がいいプレーをした時に、
「ナイスプレー!どうやったら、うまくできたの?」
「どんなところを意識してやったの?」
みたいな質問をすると、
選手に考える力を備えさせるのと同時に、
無意識を意識化して、スランプに陥りにくい状態にすることが
できるかもしれませんね。

17.Tips:なぜ、監督(コーチ)が変わると選手やチームが変わるのか

いろんな競技のチームで、監督やコーチが変わると

選手やチームのパフォーマンスが変わった例を

見たり、聞いたりしたことはありませんか?

 

例えば、プロ野球で監督が変わった途端、強くなったチームとか、

あと、サッカーで監督が変わったら、強くなったチームとか、

ありますよね。

 

なぜ、変わるんでしょうか?

何が変わるんでしょうか?

 

スポーツコミュニケーションBasic1研修でもお伝えした、

①選手やチームの潜在能力(Po)

②選手やチームの阻害要因(I)

③パフォーマンス(P)とパフォーマンスを出す能力(Pc)のバランス

の3つが、監督やコーチによって、変わるからではないでしょうか?

 

Basic1研修でお伝えした、

 P = Po – I

   P : Pc

の考え方を思い出して点検してみませんか?

16.Tips:個別最適化のアプローチ

  佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、
   長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事を
  されています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、
  日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

   ビジャレアルでの改革プロセスで指導者は、選手が「個人目標=ゴールセッティング」

 を記録するツールを採用した。「個別最適化」を図ることを目的に挙げたのに、

 全体ミーティングをして、ホワイトボードで全体の動きばかりを指摘していて、

 個へのアプローチができていなかった。

 加えて、選手という「個」との距離が遠かったことも内省として挙げられたため、

 「まず相手を知る努力をしよう」「選手(個々)が必要としていることは何なのか?」と、

 コーチたちから選手に近づく努力を始めた。

 

 個人目標は2か月ほどのスパンで区切って見直します。

 個人目標の振り返りや、気づき、現在地の確認のために行なうのです。

 すると、「君、そんなにしっかりしたことを考えていたの!」と目を見開かされることの連続でした。

 彼らが黙っているからといって、何も考えていないわけではありませんでした。

 「沈黙は思考ゼロではないのだ」とわかりました。

 

 ビジャレアルでは、チームミーティングをやめて一対一の面談を増やしました。

 その結果、一人ひとりについて、驚くべき量の情報を得られるようになりました。

 このように、方法を替えれば、見え方が変わる。気づけなかったことに気づけます。

 指導者のひとりよがりな思い込みだけで、コミュニケーションをとっているつもりに

 なっていたことに気づかされたのです。

 

 このことで得た3つの学びをまとめると、

 ①「この選手はこういう子」と主観だけでラベリングしてはいけない。

  「わかったつもり」でいないか、ワンオンワンで逐一振り返る。

 ②自分の考えを一方的に伝達しない。

   コーチの考えを一方的に伝達するだけでは、選手は何も考えず言うことを聞くだけ。

   そこに意味があるのか?と考える。

 ③答えに正解はない

   主語を選手にするチャレンジをして、選手が「僕らは(私たちは)こうしたい」と

   自ら答えを追求する流れをつくる。

 

 みなさんは、どんな指導をしたいですか?

 したいと考える指導ができていますか?

 

15.Tips:「サンドイッチ話法」を使え

  佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、
  長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事を
  されています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、
  日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

 「叱る」スキルとして、「サンドイッチ話法」というものが知られています。

 叱るときに相手が受け止めやすいように、

 ①ほめる→②叱る→③ほめるという手順で、

 「叱る」を「ほめる」というプラスの会話でサンドイッチするやり方です。

 

 ビジャレアルでも、ネガティブなフィードバックの際は、

 必ず「サンドイッチ話法」を用いたとのこと。

  「相手の良いところを伝える」

    ↓

  「相手にとって聞きたくないかもしれない改善点などを伝える」(本題)

    ↓

  「それに対する期待を伝える」

 こんな論法です。

 

 本題に入る前に、心理的な壁をつくらせないよう、相手を褒める。

 その上で本題に入り、最後に期待の言葉で締めくくる。

 そうすれば、叱られた、怒られた、ダメ出しされたというイメージで

 コミュニケーションをとられずに済みます。

 

 人は、”相手から何を言われたか?” ではなく、

 ”どんな気持ちにさせられたか?” を

 ずっと覚えている生き物だからと教わったそうです。

 

 「その人をサポートしたい、成長する手助けをしたい、

 モチベーションをもって気持ちよく次のタスクに取り組んで欲しい」

 というのが、目的であれば、

 ハラスメントに限りなく近い言葉は出なくなる。

 

 指導者のみなさん

 “選手を叱るとき、どんな目的で、どのように叱っていますか?”

14.Tips:伝えるべきフィードバック

 佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、
 長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事を
 されています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、
 日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

 ネガティブなフィードバックである叱る・怒るという言動で大切なのは、

 「何に対して叱るのか」という対象となる事柄を、よく見るということ。

 

 ビジャレアルでは、以下の3つに対して、フィードバックをしているとのこと。

 

 ①アティチュード(その人の姿勢や態度、取り組み方)

   → 選手の取り組みの姿勢や、その選手ができるのに手を抜いてやらないとき。

   なぜならば、できるはずなのに手を抜くとか、努力しなければならないのにさぼることは、

   人として、チームの一員としてよいことではない。

   このことに対しては、コーチの感情を出してもよいとのコーチたちの結論。

    ⇒ ネガティブなフィードバックを出す

 

   しかし、選手がミスをしたことに関しては叱らない。ミスは誰にでも起きる。

   チャレンジして起こるミスなら、ウェルカム。

 

 ②アプティチュード(適性、才能、スキル)

   → その人が取り組むことで改善の伸びしろがあるため、指導する側は

      あくまで応援したり、何らかの方法を勧めたり、サポートするべきもの。

      ⇒ ポジティブなフィードバックを効果的に使う

   なぜならば、スキルはあくまで“現在地”。スポーツも仕事も、その人の可能性

   (伸びしろ)は誰にもわからない。わからないから、他人に決めつけられることでもない。

 

 ③ビーイング(存在、ありよう)

   → 個人の尊厳(人権)をリスペクトし、他者から侵されることのないように

      守られなければいけない。

   「おまえは能無しだ」「だめなやつだ」「チームにいらない」などと、尊厳を傷つける

   ような言葉を投げつけるのは完全にNG

 

 

 指導者として肝要なのは、

 ✓まず、その人の存在・ありよう(ビーイング)を許容し、

 ✓その人の適性、才能、スキル(アプティチュード)をサポートし、

 ✓姿勢、態度、取り組み方(アティチュード)に関してのみ、

 ネガティブなフィードバックをする

 ことです。

 

 指導者のみなさん

 “どんな事柄に対して、どのようなフィードバックをしていますか?”

 “自分だけの勝手な主観や思考の歪から、ネガティブなフィードバックをしていませんか?“

13.Tips:「いいね!」は無意味な言葉

佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事をされています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

 

 「あなたたちは、どんなポジティブなフィードバックをしていますか?」

 と、メンタルコーチに尋ねられたコーチたちは、

 90分間のトレーニングを撮影したビデオをチェックしました。

 

 すると、英語で言うところの

 「グッド(いいね)」と、「ベリーグッド(とてもいいね)」

 の2つの言葉を連呼していた。

 「そこに価値あるメッセージはあるの?」

 と問われ、「グッドは、空っぽだった」と気づいたそうです。

 

 「誰でも言えるよね? でも、あなたたちは指導者でしょ?」

 その通り、それで指導者とは名乗れません。

 では、価値のあるメッセージって?

 豊かなメッセージとは何か?

 自分たちで自問自答した末にたどり着いた答えがこれだそうです。

 

 「自分は認められている、自分の意見を聞き入れてもらえている

  と選手が感じることだ」

 

 「ナイスプレーだったね」と言われ続けるだけでなく、

 一歩踏み込んだところで、

 「なぜ、そう思って(感じて)、なぜ、そのアクションをしたのか?」

 そのことを説明させてもらえる機会が与えられると、

 そこで彼らは自分を表現できる。

 

 例えば、良いパスがあったとき、

 単純に「ナイスパス!」で終わらせず、

 「今のパス、なぜ右にだしたの?」

 と尋ねます。

 選手:「最初は左かなと思ったんだけど、パスコースが消えてたんで、

      一度フェイントかけてる間に右に走り込んでくると思って右にだしました」

 コーチ:「なるほどね。そんな見方やプレーは、

            コーチや監督は思いつかなかったし、できなかったな」

 このようなやり取りが、彼らのモチベーションを

 ものすごい勢いで高めていくと感じました。

 へぇ、なんでそうしたの? と問われることは、

 1万個のグッドより効果的であり、尊いわけです。

 

指導者のみなさん

“「いいね!」の他に、どんな言葉を選手にかけていますか?”

12.Tips:失敗できる環境を提供する

佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事をされています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

 

 3歳~5歳の幼児に対しての

 ビジャレアルの運動メニューや指導は、

 受け取った感覚情報がどのように

 知覚・認知され運動に結びつくのかを追求しています。

 

 認知に関するアプローチの例として、

 フットボールには「団子になる」現象がありますが、

 子どもたちが団子にならないよう指導者が

 何らかの指示を出すことは一切なく、

 ついつい指示を出したくなる衝動と常に戦っているとのこと。

 

 ところが、ビジャレアルの5歳児は団子にならない。

 なぜなのか?

 

 ビジャレアルで普段行われているアプローチは、以下です。

 ①「団子になる」のは、自然の「現象」である、

 と受け止める(否定しない)。

 ②「団子になる」ことで得る子どもたちの「気づき」をスルーせず、

  敢えてそこに留まり、彼らと対話する。

  「団子になっちゃうとボールがもらえないねえ」

  「みんなボールに触れたかな」

 ③3歳児には3歳児、4歳児には4歳児、5歳児には5歳児なりの「気づき」があるもの。

   彼らに「問いかける」ことで、彼らの「見ている景色」を知り、そこに一緒に立ってみる。

   「どうしたらパスがもらえる?」

   「どうすればパスできるかな?」

   と問いかえる。

 

 このアプローチによって、

 「失敗できる環境を提供することこそが、選手にとっての学びのチャンスとなる」

 との理解にたどり着いたそうです。

 

 指導者の一方的な教え込みや、細かな修正、ティーチングはNG。

 選手が心地よく学べて、失敗しても責められない環境を

 目指すことにしたそうです。

 

 時代は変わり、環境は変化します。

 であれば、私たち指導者の成功体験は通用しなくなります。

 ビジネスも教育も同様に、

 パラダイムシフトしなくてはいけません。

 

指導者のみなさん

“失敗できる環境を提供していますか?”

“学びのチャンスをつくっていますか?”

11.Tips:「オープンクエスチョン」を使う

佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事をされています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

 

 ビジャレアルの問いかけの基本ルールとして、

 YESかNOで済ますことのできる質問は避け、

 どうして? どのように? といった

 「オープンクエスチョン」をなるべく心がけ、

 相手が上手に表現できず答えに窮するような場合は、

 二択や三択のクイズにして誘導的な問いかけをします。

 

 YESかNOの「クローズドクエスチョン」だと、

 質問者がすでに正解を用意しており、

 質問者が回答権を握っていることになる。

 

 いずれにしても

 「回答者側に主導権」がある状況を常につくることで、

 問いに意味(考える癖をつける)をもたせているとのことです。

 

指導者のみなさん

“みなさんの問いかけで、オープンクエスチョンの割合はどのくらいですか?”

“まずは、選択肢を与える問いかけから始めてみませんか?”

10.Tips:「問いかける」コーチ

佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事をされています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

 

 カメラとマイクをつけ、自分の指導をビデオで丸裸にされながら、

 コーチ陣たちは、少しずつ気づき始めたそうです。

 

 「指導が一方通行だ。子どもの判断に対し、

  僕らは自分の考えを押しつけるばかりで、

  彼らの判断について尋ねてみたことがあっただろうか」

 

 そして、練習中のグランドで、

 「問いかける」コーチの姿が増えていきました。

 

 ところが、監督が

 「今、どうして右に出したのかな?」

 と質問すると、選手はサッと身構えたそうです。

 「だって、パスコースが消されていたから・・・・・」と言って、

 まるで叱られたかのような表情になりました。

 

 それまで彼らに投げていた疑問形、

 「なんで右に出してたの?」

 は、実はダメ出しをする言葉だった。

 (どうして?って言ってるけど、実はコーチは僕に答えなんて求めていない。

  なんで右に出したんだよって否定してるんだ)

 と選手は思っていたはず。

 

 つまり、彼らにとって、コーチからの問いかけは、

 単なる否定だと刷り込まれているので、

 プレーを正当化し、食ってかかるように答えるとのこと。

 このため、問いかけを増やした当初は、

 「違う、違う。私は君の考えを本当に知りたいんだよ。

  ダメ出しではないんだよ」

 と誤解を解かなければいけませんでした。

 このように彼らの気持ちをほぐすことで、

 コミュニケーションは少しずつ変わっていったそうです。

 

 「そうなんだ。左のコースは消えてたんだね。

  ベンチからはその角度は見えなかったよ。

  意見を聞かせてくれてありがとう」

 と、彼らの判断を尊重しました。

 何を言っても、何をやっても、受け入れてもらえる

 安心安全な環境でこそ、選手たちは成長できるとのこと。

 

 スポーツ指導者のみなさん、

 “選手にどんな問いかけをしていますか?”

 “安心安全な環境をつくるためにできることは何でしょうか?”

9.Tips:古い慣習を壊すアンラーン(unlearn)「学び壊し」

  佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事をされています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

  習慣化している、自分が信じてやまない、そういったことにこそ、

  あえて「?」マークをつけ、疑ってみる。

  そのことから多くの気づきが得られる。

  これが、「学び壊し」。

 

  ラーン(Learn = 学び)

    

  アンラーン(Unlearn = 学び壊し)

    

  リラーン(Relearn = 学び直し)

 

  この繰り返しこそが、指導者に不可欠。

  こうしたいくつもの「学び」を言語化し、指導者間で意見を交わし、

  ディベートを繰り返す。

  そして、それをクラブ内(組織内)で共有していくことで

  コーチングレベルは間違いなくアップする。

 

 例えば、

  ・ホワイトボードとマグネットを使って、監督が一方的に選手の

   動きを指示する試合前のミーティング。

  ・トレーニングにおけるエクササイズの構築が自チームの「選手」

   ではなく、「相手チーム」に起因した発想(ex.相手が長身だからハイボールの対応)。

  ・試合中の、選手に対する過度なアドバイス。

  が学び直しの対象となったとのこと。

 

  仮に、自分が信じているものがあり、そこに長らく居座ってきたけれども、

  一度試してみて、全く違うものを見てきてはどうか、

  それでも、前居たところがいいとなれば、

  戻ってくればいいじゃないか、

  という取り組みをしたそうです。

 

  選手やチームにとって、パフォーマンス向上の“弊害”をなくす取り組みですね。

 

  あなたにとっての“学び直し”の対象は何でしょうか?

8.Tips:選手を指導している目的は何ですか?

    佐伯夕利子さんは、スペインで久保建英選手が移籍したビジャレアルチームで、長くサッカー選手の育成に携わり、現在、日本プロサッカーリーグの常勤理事をされています。彼女は、今、ビジャレアルでの人材育成改革の内容について、日本国内へ情報発信しています。その内容を今後、いくつか紹介していきます。

ビジャレアルの指導哲学のベースは、
 “指導者は、選手の学びの機会を創出するファシリテーター(潤滑油)に過ぎない”  
    ということ。

 “選手をけなしたり、威嚇し恐怖を与えたり、責任を背負わせたりする人は支配者であり、
   決して指導者ではない“

 
フットボール界では、
元イングランドのプレミアリーグ選手の60%が、引退後5年以内に自己破産している。
(フットボールの元プロ選手を支援する慈善団体Xプロが2013年に発表した調査結果)

こんなハイリスクな現実を見て見ぬふりしたまま、
預かっている選手たちを「フットボール選手」としてしか、
育成してこなかったのではないか、
そんな話を他のコーチと何度も話したそうです。
 
そして、
「選手じゃなくなった時の彼ら」に責任を持とう、

「フットボーラーを育てればいいわけじゃない。“人”を育てるのだ」
「人格形成ができることは、必ずフットボーラーとしての進化を促進させるはずだ」
ということで、

「ビジャレアルCF人格形成プロジェクト」が始まったそうです。
 
スポーツ指導者のみなさん、

 “みなさんが選手を指導している目的は何ですか?”
 
一度、明確にしてみてはいかがでしょうか。
 
 注)ビジャレアルCFには、3歳児からトップチームまで、約800名の選手が在籍。

7.Tips:リアクション・コーチング

スポーツの指導者(監督・コーチ)が指導している時、

 目の前で起きる現象について言葉を発しているのを

 見かけたことはありませんか?

 例えば、サッカーで、

 「そこ、狭いよ」

 「右!」

 「シュート!」

 のような言葉は発するのを

 リアクション・コーチングというそうです。

 

 この言葉って、意味あるのでしょうか?

 選手のためになっているでしょうか?

 

 おそらく、「No(ノー)」ですね。

こうしろ、ああしろという指示、命令

 選手へのダメ出し

 否定

等々の言葉は、ネガティブな影響を与えます。

 

では、どうすれば、いいのでしょうか?

 

 それは、自分の声かけに意図を持たせる

 発する言葉を自分で意識して選ぶ

 ということをやることです。

 

 まずは、

 「なんでこう言ったんだろうか?」

 「他の言葉はなかったんだろうか?」

 と振り返ることから始めてみたらどうでしょうか。

 そうすれば、自然と意識して選ぶことが身についていきます。

6.Tips:人は感情で動く

人間は、理性ではなく、感情に従って行動している

と言われています。

 

理性的に物事を判断しているように見えて、

実は90%以上は、感情を軸に動いています。

 

ですから

「言われたアドバイスや指示や指導」が正しいかどうか、

自分にとってメリットがあるかどうかという思考より、

それを言った指導者に、

「どんな感情を抱いているかどうか」で、

言われたとおりやるか、言われたことと違うことをやるか

決めているのです。

 

信頼感や安心感がないと、

選手は、あなたが指導している内容を

正しいと思って聞いてくれないということです。

 

実際に、嫌いだと思われた瞬間に

あなたがどれだけ正論を述べて、

口では「わかりました」と言ったとしても、

頭の中では「それは違う」「そんなはずはない」と、

あなたの意見を覆すような反論を考えはじめます。

5.Tips:オリエンテーション

オリエンテーションという言葉をご存じですか?

 

そうです、

大学に入学した時とか、新入社員として会社に入った時に

受けた記憶のある、あれです!

 

では、強いチームを作る時に絶対必要なオリエンテーションとは、

どんなもの何でしょうか?

 

それは、新たな関係が、今後より良く進む為の準備であり、

関係性の質を高めるのに必要なものです。

 

それでは、オリエンテーションでどういうことをすれば、

関係性の質が高まるのでしょうか?

 

以下の2点について、スポーツ指導者と新たに入ってきた選手との間で

情報の共有をし、必要なものに対しては同意を取り交わすことではないでしょうか。

 

① 新たに入ってきた選手に聞いておきたいこと

  目的・理由、 経歴、 やりたい事・ゴール・目標、 将来像、 性格、
  長所・短所、憧れの選手(ロールモデル)、 記録・能力 etc.

② 新たに入ってきた選手に言っておきたいこと

  ルール(チームルール、指導者のマイルール)、 チームの夢・ビジョン
  ・目標、 指導方針、 レギュラー選手の選考基準、
  どんな選手になって欲しいか・期待値、 考え方・取り組み方、
  指導者の価値観、 仲間の紹介 etc.

もし、オリエンテーションをやらないで指導をすると、

 不信感が生じる、 モチベーションが下がる、 チームワークが壊れる、 

 ストレスが溜まる、 チームが空回りする、 力が発揮できない 等々

が、発生する可能性があります。

 

あなたのチームでは、オリエンテーションをやっていますか?

 

今一度、見直してみてはいかがでしょうか?

 

4.Tips: 顧客の価値は何か?

ドラッカーの「5つの質問」の1つに、

「顧客の価値は何か?」という問いがあります。

 

「顧客の価値」とは、自分たちの商品を通して、

顧客にどんな価値を買ってもらっているのか

を意味しているとのこと。

そして、その価値を知ったならば、

価値が高まるように自分たちの商品を

どんなふうに変えたらよいのかを考えるとのこと。

 

いま、新型コロナ下で、私たちを取り巻く環境は、

全世界で今までにないレベルで大きく変わってきています。

 

いままで、ずっとお付き合いしてきた、私たちの顧客はどうでしょうか?

私たちの商品に対して、今までのように価値を持ってくれているでしょうか?

 

顧客のニーズ、欲求、期待は、どのように変化していますか?

 

“顧客は何をもって価値とするかという問いは、

実はあまりに複雑であって、顧客本人にしか答えられない“

と言われます。

 

ウィズコロナの状況下、そして、アフターコロナを見据えて

開発や営業担当者だけではなく、経営者、管理職も

顧客のところに行って、生の声を聞き、自らの五感で、

顧客の新たなニーズ、欲求、期待を感じ/聴き取ることは、

どのくらい重要なことですか?

3.Tips:承認の言葉

人間の基本的な欲求の中に、「承認の欲求」があります。

認知されたい、自分の有用性を評価されたいという欲求です。

 

では、承認されると、私達は、どうなるのでしょうか?

 

承認されると、自己肯定感(自尊心)、自己効力感(有能感)を満たすことができます。

そうすると、モチベーションのアップに繋がり、

物事に対して、自発的に努力し、成長するようになります。

 

スポーツの世界でも、選手が、

眠っていた潜在能力(持ち味)とパワーを発揮し、

チームのパフォーマンス向上(勝利)に繋がります。

 

また、良好な人間関係を形成することもできます。

 

まずは、第一歩として、

承認の言葉かけ・声かけから始めてみませんか?

 

承認には、存在承認、行動承認、成果承認の3つがあります。

それぞれの言葉かけ・声かけの例をいくつか紹介します。

 

存在承認の声かけ:

「おはよう」(あいさつ)、「○○さん」(名前を呼ぶ)、「大丈夫?」(気づかう)、

「君の意見を聞かせてくれ」(意見を求める)etc.

行動承認の声かけ:

「頑張っているね」(行動を事実として伝える)、「いいところまで来てるよ」(励ます)、

「ありがとう」(相手の行動に感謝する)etc.

成果承認の声かけ:

「さすが」(結果をほめる)、「頑張ったね」(結果をねぎらう)、「よくやった!」(目標達成を伝える)、

「助かったよ」(かつて相手がしてくれたことに感謝する)etc.

 

2.Tips:チーム内の関係性

みなさん、“関係性”という言葉を、スポーツで、よく耳にしませんか?

 

「チーム内の関係性が大事だ!」

「関係性をよくしよう、改善しよう!」

とか、聞きませんか?

 

では、関係性が、どのようにチームのパフォーマンスに繋がるのでしょうか?

 

人間は、感情の動物です。

私たちの内部で、無意識に、こんな事が起きていないでしょうか?

 

安心感があると → 信頼感に繋がり → 信頼する人が言うことは正しいと思う → 納得し/行動が早い一生懸命やる  に繋がる

 

逆だと、

恐れ・不安 → 不信感 → 間違い → 疑う遅い手抜き  に繋がる

となります。

 

つまり、関係性の質の向上(安心感がある)が、行動の質の向上に繋がり、そして、良いパフォーマンス(成果・結果)に繋がる。

 

では、どうしたら、チーム内に安心感を醸成できるのでしょうか?

 

それは、良いコミュニケーションを取ることです。

まずは、スポーツ指導者が自ら率先して、笑顔で挨拶、明るいちょっとした声掛けから始めましょう。

そして、徐々にレベルアップしていきましょう。

1.Tips:スポーツでの曖昧な言葉

みなさんは、スポーツをしている時、何気なく、曖昧な言葉を使っていませんか?

 

例えば、試合の時、監督やコーチが、選手に対して

「メンタルが大事だぞ!」

とか、言っていませんか?

 

この時のメンタルって何? どういう意味でしょうか?

この言葉を言った方と言われた方の“メンタル”は、同じ意味でしょうか?

 

きっと違う意味で使われていることがあると思います。

もし、そうであれば、有効なコミュニケーションになっていないということです。

 

ある女子日本代表チームでは、

このような曖昧な言葉を明確に定義して、

有効なコミュニケーションをしています。

 

例えば、

“メンタル”は、“緊張度”、“集中度”、“感情(ex.驕り、リスペクト)”に

分けてコミュニケーションをしています。

 

「今、緊張度は、どのくらいだ?」

「今、どのくらいプレーに集中できている?」

「相手チームに対して、リスペクトできているか?驕りはないか?」

みたいな感じです。

 

みなさんのチーム内で交わされている言葉に

曖昧なものはありませんか?

 

もし、あれば、一度見直して、

明確に定義してみてはいかがでしょうか?
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